「金属を切るのにダイヤモンドを使う」――そんな少し意外な発想が、実は加工現場ではごく普通の選択肢になっています。中でも、焼結ダイヤモンドであるPCD(ポリクリスタルダイヤモンド)工具は、非鉄金属や複合材の加工において大活躍しています。
ダイヤモンドの常識をくつがえす“焼結技術”
ダイヤモンドは硬いけれど脆い、というのが従来のイメージ。それを覆したのがPCD。細かいダイヤ粒子を高温・高圧で焼き固めて、多結晶構造にしたことで、衝撃にも強く、現場での使用に耐えるタフな工具が生まれました。天然ダイヤに匹敵する硬さを持ちながら、扱いやすさは格段に良い。まさに、現場向けに進化したダイヤモンドです。
鉄は苦手。でもそれ以外なら圧倒的
PCD工具が避けたいのは、鉄や焼入れ鋼のような炭素を含む素材。高温で化学反応を起こし、性能を損なってしまいます。ですが、非鉄金属や複合材の加工では圧倒的な性能を発揮します。
加工材料と用途例:
加工材料 |
主な用途例 |
アルミ合金 |
EV車(バッテリーケース)、自動車部品(ホイール、エンジン)など |
銅・銅合金 |
電子部品 |
CFRP・GFRP |
航空機 |
グラファイト |
放電加工用電極 |
セラミック系材料 |
半導体基板、精密部品 |
特に、CFRPの層剥がれやバリを抑えた穴あけ加工や、アルミ合金の鏡面仕上げなど、普通の工具では難しい加工に強みがあります。
使うメリットは“長寿命”と“高精度”
PCD工具の魅力は、なんといっても耐摩耗性の高さ。超硬工具に比べて寿命が数倍〜数十倍にも伸びるケースがあり、工具交換の手間やコストを大幅に削減できます。加えて、切削中の変形が少なく、加工面も非常に美しく仕上がるため、高精度加工にも非常に有効です。
注意点と選定のコツ
PCD工具は非常に高性能ですが、すべての加工に万能というわけではありません。適用できる素材が限定的であること、また工具自体が高価で再研磨や成形も難しいため、用途に合った的確な選定が重要です。
・素材の種類(鉄系NG、非鉄系◎)
・加工精度の要求レベル
・切削条件(回転数・送り速度など)
・工具コストと寿命のバランス
これらを見極めて選定することで、PCD工具の力を最大限に引き出せます。
こんなところにも活躍中
宇宙開発の分野でも活用されているのをご存じでしょうか?
過酷な温度変化や振動・衝撃にさらされる宇宙探査機の部品加工においても、PCD工具の高い耐摩耗性と加工精度が評価されています。
実際に探査機や防衛システム向け部品の製造にPCD工具が用いられているほか、Tボーイングやロッキード・マーティンといった航空宇宙産業の現場で採用されています。
地球上だけでなく、宇宙レベルの過酷な環境にも耐えうる加工性能――それが、PCD工具の確かな実力を物語っています。
まとめ
加工品質・生産性・工具寿命のすべてを高水準で実現するPCD工具。非鉄金属や複合材の高精度加工において、選定次第で大きな効果を発揮します。適切な条件で使用すれば、量産現場における工程安定化にも寄与する信頼性の高い選択肢です。