切削加工において、工具本体の性能を最大限発揮させるためには、適切なツーリング(工具保持具)の選定が不可欠である。
ツーリングは工具の振れ精度、剛性、バランス、クーラント供給性に直接影響し、加工品質および工具寿命に大きく関わる。本稿では主要なツーリング方式と、それに関係する切削工具のシャンク径公差について整理する。
1. 工具保持具
ハイドロチャック(油圧チャック)
内部油圧によりスリーブを膨張させてクランプする方式。高い振れ精度(3μm以下)を有し、高精度仕上げ加工や小径工具保持に適する。
ミーリングチャック
カム構造やスリーブにより高い保持力を発揮する方式。剛性が高く、重切削や側面加工に適用される。
焼き嵌めホルダー(シュリンクフィット)
加熱により内径を拡大し、冷却収縮で工具を固定する方式。振れ精度1〜2μmと高精度で、高速回転加工にも適する。
コレットチャック
コレットスリーブで工具を締め付ける汎用方式。小径工具やドリル、タップなど幅広く使用可能。
内部クーラント対応コレット
特殊シール構造により工具中心へクーラントを供給できるコレット。深穴加工や難削材加工に有効。
サイドロックホルダー
シャンクのフラット面を横ネジで押さえて固定する方式。保持力が高く、重切削に適するが振れ精度はやや劣る。
タッパーチャック(タップホルダー)
タップ加工専用ホルダーで、フローティング機構によりピッチ誤差を吸収し、ねじ加工精度を確保する。
防振ホルダー
内部ダンパーにより振動を低減。突き出し長が長い加工やビビリ対策に有効。
2. ワーク保持具
爪チャック(スクロールチャック):丸物・角物を爪で把握する汎用方式。旋盤加工に広く使用される。
マグネットチャック:磁力でワークを吸着し、研削加工に利用される。
真空チャック:吸引で平板ワークを固定し、薄板や樹脂加工に有効。
エアチャック(空圧チャック):空気圧で開閉する方式。量産加工で段取り替え時間を短縮。
油圧チャック(ワーク用):高い保持力と安定性を持ち、重切削・高精度加工に適用。
割出台(インデックステーブル):ワークを正確な角度で割り出すための治具。
3. 特殊用途ツーリング
アングルヘッド:主軸に対して横方向や斜め方向に工具を出すアタッチメント。干渉回避や側面加工に用いられる。
ボーリングヘッド:内径加工用で、刃先位置を微調整可能。精密な穴径仕上げに適用。
ミリングカッターボディ:インサート式刃先を装着して多様なフライス加工を行う。
4. シャンク径公差とツーリングの適合性
切削工具のシャンク径はJISやISOで規定され、特に高精度ツーリングでは h6公差 が前提となる。
例:φ10mmシャンクのh6公差範囲 → 10.000〜10.006mm
ツーリング方式別の推奨公差
焼き嵌めホルダー:h6必須
ハイドロチャック:h6推奨
精密コレットチャック:h6〜h7
サイドロックホルダー:h6〜h8程度可
公差不適合による影響
保持力低下による工具抜け
振れ精度悪化による加工品質低下
ホルダー損傷のリスク(特に焼き嵌め)
実務上の注意点
工具メーカーのシャンク公差を事前確認する
実測で径を確認し、規格外は使用しない
シャンク表面の傷や異物は除去
内部クーラント仕様では後端形状も確認する
結論
ツーリングは単なる工具保持具ではなく、加工精度・工具寿命・生産効率を左右する重要要素である。
切削工具メーカーとしては、工具とツーリングを一体で最適化し、加工目的に応じた選定を行うことが不可欠である。