油圧機器は「ミクロン単位のすき間」で動いている
油圧ショベルのアーム、プレス機のシリンダー、工作機械のバルブ——普段は意識しませんが、これらを動かしている油圧機器の内部では、部品同士のすき間がミクロン単位で管理されています。業界の事例では、油圧バルブ用スプールの外径公差を0.002mm(2μm)程度まで管理しているケースも見られます※。すき間が広すぎればオイルが漏れて圧力が抜け、狭すぎれば焼き付きが起きる。油圧バルブボディやシリンダーの穴加工に、一般的な工具ではなく専用設計の超硬工具が使われるのは、このミクロン単位の世界を成立させるためです。
油圧バルブボディやシリンダーには、ねずみ鋳鉄(FC200・FC250など)や球状黒鉛鋳鉄(FCD400・FCD450・FCD700など)といった鋳物材が多く使われます。強度や耐摩耗性に優れる一方、材質によって黒鉛の形状や硬さが異なるため、同じ工具でも材質ごとに刃先の摩耗の進み方やむしれの出方が変わってくるのも、油圧機器部品加工ならではの難しさです。
今回は、油圧機器部品の加工現場で実際に起きやすい4つのトラブルと、それぞれに対応する専用工具の考え方をご紹介します。
トラブル1:穴の入り口・出口に出るバリ・むしれ
油圧バルブボディの穴加工でよくあるのが、穴の入口や出口に発生するバリやむしれです。バリが残ったまま組み付けると、シール性能の低下やオイル漏れの原因になります。
この対策として有効なのが、右刃左ネジレのテーパー付きリーマです。切りくずを工具後方(穴の入口側)へ排出する構造のため、仕上げ済みの穴壁面に切りくずが接触しにくく、むしれやバリの発生を抑えられます。貫通穴の仕上げ加工に適した設計です。
トラブル2:びびり振動で送り速度を上げられない
穴加工だけでなく、油圧機器部品の外形・溝加工でも課題になりやすいのが「びびり」です。切れ刃が等間隔で被削材に接触すると共振が起きやすく、加工中にびびり振動が発生すると、面粗さの悪化を避けるために送り速度を落とさざるを得ません。
不等分割・不等リードのエンドミルは、切れ刃の間隔をあえて不均等にすることで共振を分散させ、びびりを抑制する設計です。びびりが起きにくくなる分、送り速度を上げられる余地が生まれ、加工能率の向上(高送り化)にもつながります。
トラブル3:複数工程に分けると溝幅がばらつく
油圧機器部品にはヌスミ形状(逃げ溝)が多く見られますが、これを複数の工具・複数の工程に分けて加工すると、工程間の位置ずれが積み重なり、溝幅や形状にばらつきが出やすくなります。
対象形状に合わせて刃形状・寸法を設計した専用のTスロットカッターを使えば、1本の工具で溝幅・形状精度を安定して確保できます。工程を集約できるため、段取り替えや工具交換の回数が減り、工程短縮にもつながります。
トラブル4:アルミ加工で刃先に切りくずがこびりつく
油圧機器部品にはアルミ材が使われることも多く、アルミ特有の課題として「構成刃先」(切りくずが刃先に凝着する現象)があります。これが起きると仕上げ面に傷が入るだけでなく、刃先の摩耗が早まり、工具寿命が短くなります。
DLCコーティングはアルミとの親和性が低く、切りくずが刃先に付着しにくいため、構成刃先の発生を抑え、工具寿命の向上につながります。ロウ付け構造の工具であれば、摩耗時も刃先部のみの交換・再研磨で対応できる点もコストメリットです。
まとめ
油圧機器部品の加工トラブルの多くは、「なぜそのトラブルが起きるのか」という原因に合わせて工具の刃形状・ネジレ方向・コーティングを設計することで解決できます。汎用工具では対応しきれない加工でお困りの際は、お気軽にソリッドツールまでご相談ください。
※ スプール公差の数値例:株式会社シマワ「油圧バルブのスプールとポペット」(shimawa.co.jp)掲載の製品事例より
