結論
φ16以上の大径工具であれば、超硬ソリッドからロウ付け工具(鋼材の母材に超硬チップをロウ付けするタイプ)へ切り替えることで、高騰し続ける超硬素材のコストを大きく抑えられます。剛性がやや落ちる分、機械や加工条件を選びますが、条件が合えば効果は小さくありません。
超硬素材の価格はこの1年で急騰し、もはや以前の相場観では語れない状況になっています。長年、剛性と加工安定性を優先してソリッド工具(工具全体を超硬で製作するタイプ)を勧めてきた立場としても、コストを理由にロウ付け工具を積極的に提案する場面が明らかに増えました。なぜこの選択が理にかなっているのか、構造とコストの両面から整理します。
背景にあるのは、ねじれた需要
中国はタングステン生産で世界シェアの約80%を占めています。ところが昨年1月頃からの日中間の貿易摩擦を機に、タングステンパウダーの輸入が事実上止まりました。日本の素材メーカーは中国以外、主にヨーロッパから調達せざるを得なくなり、国内相場は割高なヨーロッパのAPT(パラタングステン酸アンモニウム)相場に連動する形になっています。一方の中国国内では輸出先を失った素材がだぶつき、相場はむしろ下落するという、ねじれた状況が起きているのです。
構造の違いが、そのままコストの差になる
ロウ付け工具は、SCM440などの鋼材を母材に、刃先部分だけ超硬チップを接合した構造です。母材が鋼材である以上、超硬ソリッドに比べて剛性はやや劣り、熱による工具の膨張・収縮で穴径の安定性に影響が出ることもあります。とはいえ、機械側の剛性が十分でない現場では、むしろ逃げ幅のあるロウ付け工具の方が安定して切削できるケースも少なくありません。剛性の高い工具が常に正解とは限らず、使用する機械との相性で選ぶべきものです。
コストの差はここから生まれます。ソリッド工具は工具全体が超硬のため使用量(重量)が多く、重量ベースで価格が決まる場面では高騰の影響を正面から受けます。重量に制限がある案件では入手自体が難しくなり、焼結による形状製作は素材入手だけで2〜3カ月を要しているのが現状です。対してロウ付け工具の板チップは使用する超硬の重量が少なく、価格変動の影響を相対的に抑えられます。ただ、板チップも入手に1〜2カ月はかかりますし、母材の旋盤・フライス加工には手間がかかり、ロウ付け作業そのものにも高度な技術が要ります。ロウ付けに使う銀ロウの銀相場も上がっているため、コストメリットは単純な引き算ではありません。それでも総じて、大径になるほど板チップ・ロウ付け工具に軍配が上がる傾向は変わらないというのが実感です。
ソリッドでなければならない工具もある
念のため、コストだけでソリッドを切り捨てられるわけではないことも付け加えておきます。φ16以下は剛性の面からロウ付けでの製作が難しい場合が多く、ネジレ(スパイラル)タイプやコーティングが必要な工具は、引き続きソリッドでの製作が前提になります。逆に、直溝タイプのリーマ・バニシングリーマ・バニシングドリルは板チップとの相性が良く、実際に製作も可能です。工具の形状と要求精度を見極めた上で、どちらを選ぶべきかを判断することになります。
まとめ
超硬素材の高騰は、当面落ち着く見通しが立っていません。今お使いの高価なソリッドタイプの大径工具についても、ロウ付け・埋込板チップタイプへの変更でコストを抑えられる余地がないか、一度見直してみる価値はあります。ご検討の際は、ソリッドツールまでお気軽にご相談ください。



