※この記事の内容がツールエンジニアの2010年6月号に掲載されました。
「複合Rエンドミル」を使うと、
精密でRが重なり合う複雑な形状の切削加工を短時間に行うことができます。
通常、精密で重なり合う複合R形状の金属加工を行う場合、ボールエンドミルを用いた複雑な3D加工データが必要になり、それに伴う3D加工プログラムの作成時間と加工時間等に多くの経費が掛かっていました。
○小径ボールエンドミル加工で複雑なプログラムを組み、時間をかけて切削、倣い加工をしており納期対応に大変苦慮している。○R形状管理でボールエンドミルの肩減り磨耗よる寸法追込み管理が必要で頻繁に微調整をしている。 ○加工依頼が来るR形状は多種多様で毎回異なっており、その都度複雑な加工プログラムを組む社員に過度の負担がかかっている。 ○小径ボールエンドミルで面粗度が図面の基準を充たすまで複数回の倣い加工が必要になり、加工時間が深夜にまで及び人件費、光熱費などのコストも高くなっている。 |
複合Rエンドミルと市販ボールエンドミルとの比較
複合Rエンドミルの多様なメリット
複合Rエンドミルとは
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エンドミルの先端をワーク形状に合わせて研磨することで、複雑なR形状を短時間に切削加工することが出来ます。 複合R加工の事例一覧はこちら |
今までのR1エンドミルでの切削加工の場合
仕上げ時のパス:*R1エンドミル時
1溝あたり
P(ピッチ)=0.3mm間隔での加工では→左右あわせて56条で完成
面粗度重視の場合の1溝あたり
P(ピッチ)=0.15mm間隔での加工では→左右あわせて112条で完成
加工する為には、3Dデータが必要。
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複合Rエンドミルを使用した切削加工の場合
荒加工 *Φ6エンドミル 6X6条の溝加工
荒~仕上げ *複合Rエンドミル
1溝あたり Z軸(深さ)取しろの経緯=6mmから →7.5mm →7.78mm →7.8mm(最終深さ)
3条で完成
刃物剛性が高いのでビビリ等無く、不快な音、切り屑の詰まりなど問題なし。
2Dデータで対応が可能。
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先端R6のボール形状に肩1R後15°スミR1後45面取りが一工程で加工できる刃形状です。
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資料提供:(有)田中製作所 東大阪市玉串町東3-5-32 |
製造方法
プロファイル研磨盤と卓越した熟練工の技術により、エンドミルの先端部を投影させながらダイヤモンド砥石を用いて仕上がりワーク形状に合わせエンドミルを研磨していきます。
工具性能
- 切削加工上でのR形状の管理は、刃部全体が当たって均等に刃が磨耗するので形状崩れが少なく管理が容易に行なえます。
- 量産品の場合は粗加工と仕上げ加工用に使い分けて、粗用で削り代を0.1程度残し、仕上げ用エンドミルで最終仕上げ加工することで長く形状が保てます。
- 加工ワークの仕上がり面粗度の要求も複合Rエンドミルの刃部をより細かく研磨仕上げることで要求を充たす事が出来ます。
- 溝形状はスパイラル仕様にしており切りくずの排出性にも優れています。
加工範囲
加工範囲は、通常のエンドミルと同様に、横走り溝切削加工、側面削り、溝削り、穴あけ、穴座繰りとあらゆる切削加工に使えます。
事例紹介 AL17Sの複合R加工
材質 | AL17S |
仕上がり寸法 | 深さ7.8mm |
使用条件 | S2400 F300 |
特殊切削工具(複合Rエンドミル)利用による効果
近年国内の厳しい価格競争や近隣アジア諸国に対しての優位性を示すためには、いかにコストを下げるかが最も重要になってきています。国内の金属切削加工現場では、コスト削減要求による加工時間短縮の要望が高まってきており、品質は良くて当たり前で、いかに早く良品台数を仕上げていくかが求められています。
今回紹介したR溝加工は、高精度の多軸複合工作機械を用いたボールエンドミル加工により、複雑なR形状の切削加工を高速かつ精密に加工することが容易な時代になりましたが、複合R形状を精密に削るためには小径のボールエンドミルで何条のも倣い加工が必要です。
通常、粗加工→中仕上げ→本仕上げ加工とR公差要求に応じて切削加工をします。
複合Rエンドミルは、従来の加工方法から加工時間を大幅に短縮することが可能になるので、人件費、光熱費などの経費削減に貢献できます。
仕上がり加工ワーク形状に合わせて切削工具を成形製作していますので、1工程の加工でR形状が確保でき、
粗、仕上げ加工2工程で仕上がるようにしています。そのため、加工プログラムの製作時間と切削加工の稼働時間の両方を削減することが可能です。
会社の規模を問わず、加工時間が大幅に短縮でき、段取りに掛かるプログラム入力も最小限に抑えることができます。高精度な工作機械や特殊な設備を用いることなく精密な複合R加工が可能になるので、汎用のフライス盤でも容易に量産できるようになります。
また、コーティング加工を組み合わせる事でチッピングの防止や耐久性を持たせることが可能で、「複合Rエンドミル」は日本の製造業が厳しい経済環境に生き残っていくために必要不可欠なツールだ考えています。
※この記事の内容がツールエンジニアの2010年6月号に掲載されました。